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那覇地方裁判所 昭和47年(ワ)246号 判決 1976年4月14日

本訴原告(反訴被告)

日本航空株式会社

右代表者

朝田静夫

右訴訟代理人

真喜屋実男

外四名

本訴被告(反訴原告)

日本航空労働組合繩支部

右代表者

山川仁裕

右訴訟代理人

金城睦

外三名

主文

本訴原告(反訴被告)と本訴被告(原訴原告)との間において本訴被告(反訴原告)が別紙物件目録一記載の建物につき使用貸借権を有しないことを確認する。

本訴被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じ本訴被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  (本訴請求)

1  本訴原告(反訴被告、以下単に原告という)

主文第一および三項と同旨。

2  本訴被告(反訴原告、以下単に被告という)

(一) 原告の本訴を却下する。

(二) 原告の請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  (反訴請求)

1  被告

被告と原告との間において、被告が別紙目録三記載の建物の一部につき訴外全日本航空労働組合と同一条件に基づき組合事務所として使用する権利を有することを確認する。

反訴費用は原告の負担とする。

2  原告

主文第二項と同旨

反訴費用は被告の負担とする。

第二  被告の本訴に対する本案前の主張

原告の本訴請求は、別紙物件目録一記載の建物(以下本件第一建物という)について過去の紛争に対する確認請求であり、右紛争は和解によつて解決し、現時点では原被告間に争はないから訴の利益がない。

第三  当事者双方の本案上の主張

一、被告の反訴請求原因

1  被告は原告会社の従業員約一万一〇〇〇名中約三七〇名をもつて組織する日本航空労働組合の沖繩における支部である。

2(一)  訴外旧日本航空労働組合(以下単に訴外旧日航労組という)は原告会社との間において昭和三六年一一月一日左記条項を内容とする労働協約を締結した。

第一六条一項「会社(原告)は組合活動に対し組合活動に必要な施設及び什器等をあらかじめ組合から申出のあつた場合、特に支障のない限りこれを貸与又は使用することを認める。」

(二)  仮に右事実が認められないとしても、原告は訴外旧日航労組に対して右労働協約締結の際、原告の営業所の一部を組合事務所として使用させる旨約した。

3  訴外旧日航労組は旧日本航空株式会社の労働組合として結成され、また訴外日本航空整備労働組合(以下単に訴外日整労組という)は旧日本航空整備会社の労働組合として組成されたが、後者の会社が前者の会社に昭和三八年吸収合併され原告会社となつたため、右両労働組合も合同することとなり、昭和四一年七月一六日・一七日の各臨時大会においてそれぞれ新組合の設立時をもつて解散する旨の決議を行ない、同年八月二六日ないし二八日の新組合設立大会において訴外旧日航労組および訴外日整労組の各所属組合員が加入して新らたに日本航空労働組合(以下単に日航労組という)を設立し、右労働組合は、訴外旧日航労組の権利義務を承継するに至つた。

4  仮に原告会社と旧日航労組の間において組合事務所の貸与について合意が存在しないとしても、組合事務所は労働組合活動の場所的中心であり、また被告は原告の企業内組合であるから労使慣行上、被告は原告の企業施設の一部を組合事務所として利用する権利が認められる。

また、原告は昭和四四年一二月一七日那覇市久米町一丁目八番地所在の沖繩事務機ビルから別紙物件目録三記載の建物(以下本件第三建物という)にその営業所を移転した際に原告会社に日本航空労組と併存する全日本航空労働組合(第二組合)に移転先の新事務所内に組合事務所を供与しながら被告に対し組合事務所の供与を拒否することは不当労働行為を構成するから、原告は被告に対し右第二組合と同一条件に基づく組合事務所を供与する義務がある。

5  原告の沖繩における営業所は本件第三建物である。

6  よつて、被告は原告に対して、労働協約ないし貸借契約または労使慣行上等により本件第三建物の一部につき使用権を有するので、その確認を求める。

二、反訴請求原因事実に対する原告の認否

1  反訴請求原因1および2の(一)の各事実は認める。

2  同2の(二)の事実は否認する。

3  同3および4記載の事実は認めるがその主張は争う。

4  同5記載の事実は認める。

三、原告の本訴請求原因(反訴請求原因1の(一)に対する抗弁)

1(一)  (反訴請求原因1の(一)の抗弁)

原告は前記労働協約第一六条一項に基づき昭和三七年四月ころ、訴外旧航労組に対して組合事務所として当時原告の沖繩における営業所内にあつた本件第一建物を使用させていたが、右労働協約は昭和三八年一〇月三一日に期間満了した。

(二)  (反訴請求原因1の(二)の抗弁)

原告は被告に対して昭和四四年一二月三日組合事務所の貸与契約の解約告知の意思表示をした。

2  (本訴請求に対する確認の利益)

ところが、被告は本件第一建物につき使用権を有する旨主張し右建物から退去するのを拒んでいたが、原告が被告に対して右建物から退去を求めた仮処分命令申請事件(那覇地方裁判所(ヨ)第二二八号)において、原告と被告との間に、(イ)被告は一九六九年(昭和四四年)一二月三一日限り右建物から退去する、(ロ)原告は本訴判決確定に至るまで被告に対し組合事務所を提供する旨の和解が成立し、原告は被告に対し右和解に基づき別紙物件目録二記載の建物(以下単に本件第二建物という)を組合事務所として提供して使用させている。

3  しかしながら、被告が第一建物についての使用する権利は前記1の(一)および(二)記載のとおりであるから、原告は被告が本件第一建物につき使用権を有しないことの確認を求める。

四、本訴請求原因(反訴請求原因に対する抗弁)に対する被告の認否

1  本訴請求原因1の(一)(反訴請求原因1の(一)に対する抗弁)の事実を認める。

2  同1の(二)(反訴請求原因1の(二)に対する抗弁)の事実を否認する。

五、本訴請求原因に対する被告の抗弁(反訴請求原因1の(二)に対する再抗弁)

旧日航労組と原告間の本件第一建物供与の労働協約はその期間満了後も労使慣行によつて右協約の効力が失われるものではない。

仮に右労使慣行が認められないとしても、旧日航労組は右労働協約の期間満了後も原告から引続き本件第一建物の貸与を受け、その後被告が反訴請求原因3記載のとおり旧日航労組の右権利を承継した。

六、本訴請求原因に対する抗弁(反訴請求原因に対する再抗弁)に対する原告の認否

被告の前項の抗弁事実のうち、反訴請求原因3記載の事実は認めるがその余の事実は否認する。

七、本訴原因に対する原告の再抗弁

仮に被告主張のような原、被告間に第一建物の貸借関係があるとしても、右貸借は使用貸借であるから、原告は被告に対し昭和四四年一二月三日に同月三一日限り明渡を求める旨の解約の意思表示をした。

八、原告の再抗弁に対する被告の認否再抗弁事実を否認する。

九、本訴請求原因に対する被告の再々抗弁

1  被告の本件第一建物を組合事務所として使用する権利は単なる民法上の使用貸借契約に基づくものではなく、反訴請求原因4記載のとおり労働慣行に基づくものであるから、会社側である原告が代替事務所を提供することなく一方的に解約することは許されない。

2  また、原告は昭和四四年一二月一七日、那覇市久米町一丁目八番地所在の沖繩事務機ビルから本件第三建物にその営業所を移転した際、原告会社に日本航空労組と共に併存する訴外全日本航空労働組合の沖繩支部に対してその営業所の一部を組合事務所として貸与しながら、被告に対しては組合事務所の貸借契約の解約告知をなすことは右訴外全日本航空組合に比して被告を不利益に取扱うものであり、右解約告知は不当労働行為として無効である。

一〇、再々抗弁事実に対する原告の認否

再々抗弁1の事実中その主張のような労使慣行の存在することは否認するが、その余の事実および再々抗弁2の事実は認めるがそめ主張はいずれも争う。

第四  証拠関係<省略>

理由

第一本訴に対する本案前の主張に対する判断

一件記録によると、本訴請求は原告の被告に対する本件第一建物の明渡を求める断行の仮処分申請(那覇地方裁判所一九六九年(ヨ)第二二八号)に対する本案訴訟として提起されたものであること、右仮処分については一九六九年一二月二七日、原被告間に「(1)被告は一九六九年一二月三一日限り本件第一建物から退去する、(2)原告は本案勝訴判決が確定まで被告に本件第二建物を提供する。」との裁判上の和解が成立し、原告は被告に対し右和解条項に基づき本件第二建物を貸与していることを認めることができ、右事実によると右和解条項(2)の効力は本訴請求の勝訴判決確定を解除条件としているものであるから、右和解が成立したからといつて本訴の確認の利益まで失われるものではない。

したがつて本訴に確認の利益がない旨の被告の抗弁は採用できない。

第二本案の主張に対する判断

一(反訴請求に対する判断)

1  被告の反訴請求原因1記載の事実は当事者間に争いがない。

2  同2の(一)記載の事実および被告の抗弁1の(一)記載の事実は当事者間に争いないが、被告は再抗弁として原告と旧日航労組間の組合事務所供与についての労働協約は労使慣行により、右協約の期限到来によつて失効しない旨主張するが、しかし、全証拠によるも原告と旧日航労組間に法的に労使双方を拘束する労使慣行まで高められたかかる事実を認めることはできない。

したがつて原告と旧日航労組内の組合事務所供与に関する労働協約は昭和三八年一〇月二一日限り消滅したといわざるを得ないから被告の反訴請求原因2の(一)に基づく請求はその余の事実を判断するまでもなく失当である。

3  同2の(二)記載の事実は全証拠によるもこれを認めることはできない。

したがつて、同2の(二)に基づく請求はその余の事実につき判断するまでもなくそれまた失当である。

4  次に、被告の反訴請求原因4記載の請求について考える。

(一) まず、被告の主張によると労使間に組合事務所供与についての合意が存在しないとしても、企業内組合の場合には労使慣行上、組合は企業に対し企業施設の一部を組合事務所として供与することを求める権利があるというが、確かに組合事務所が労働組合活動の場所的中心でありしかも企業内組合の場合、その有効な活動のためには企業施設内に組合事務所をもつことが必要であることはいうまでもないが、しかし、企業からの組合に対する組合事務所の供与は一方的な利益供与であつて、本来は労使間において労働協約等の合意によつて定められるべき事柄であり一般的に単に企業内組合だからといつて企業が組合に対し企業施設内に組合事務所を供与すべき労使慣行があると解することはできないし、また全証拠によるも原被告間に法的に労使双方を拘束するかかる労使慣行があるとは認められない。

(二) 次に、被告は原告が第二組合である全日本航空労働組合に組合事務所を供与しながら第一組合である被告に供与しないことは不当労働行為にあたるから、原告は被告に対しても全日本航空労働組合と同一条件の下に組合事務所を供与すべき義務があると主張するが、確かに企業が第二組合に組合事務所を供与しながら第一組合にその供与を拒絶する差別行為が不当労働行為に該当する可能性の高いことは否定できないが、しかし、それは企業の第二組合に対する組合事務所の供与行為が不当労働行為にあたるとしても、それだからといつて被告主張のように第一組合が企業に対して積極的に組合事務所の供与を求める権利を発生せしめるものではないから、被告の本主張も採用し難い。

したがつて、被告の反訴請求原因4に基づく請求も失当といわざるを得ない。

二(本訴請求に対する判断)

1  反訴請求原因2の(一)記載の事実および本訴請求原因1の(一)記載の事実は当事者間に争いがなく、また、被告の抗弁中、本件第一建物供与の労働協約がその期間満了後も労使慣行によつて失効しない旨の主張については前記一(反訴請求に対する判断)の2記載のとおり失当である。

2  そこで被告主張のとおり右労働協約の期間満了後において、旧日航労組が原告から本件第一建物を貸与を受けたか否か、貸与を受けたとすれば右貸借を被告が原告に対して主張できるか否かにつき考える。まず、<証拠>によると、次の事実を認めることができる。

(一) 被告は昭和三七年頃旧日航労組の沖繩支部として発足したが、同年四月原告から旧日航労組と原告間に締結した労働協的(昭和三六年一一月一日発効分)一七条に基づき、組合事務所として、当時原告沖繩支店の営業所のあつた第一建物を借り受けたこと

(二) 旧日航労組と原告間の右労働協約は同協約八六条により昭和三八年一〇月三一日その期間満了を原因として失効したので、原告は旧日航労組に対し同年一二月二八日労働協約の会社側改訂案を提出したが、旧日航労組としてはその内容が旧労働協約と比較して極めて不利なところから改悪反対の態度をとり、この締結を拒否したこと、両協約中の組合事務所貸与に関する規定の差異は、旧協約では「会社は組合から申出のあつたときは、特に支障のない限りこれを貸与する」旨を定めていたのに、新協約では「会社が適当と認める場合に貸与し」、「会社が必要と認める場合はその返還を求め、または変更することができる」旨の条件を付していること。

(三) 原告は、旧協約の失効後も、新協約の早期締結に期待をかけて旧日航労組に対し、直ちに各支部に貸与中の組合事務所の返還を求める挙にでることなく、新協約の締結を促しながら組合事務所の使用を黙認していたが、昭和四一年七月一六日と一七日に旧日航労組の臨時大会が開催され解散決議がなされ、同年八月二六日ないし二八日に新組合設立集会が開催されて日航労組が設立されたことから、旧日航労組と日航労組間には権利義務の承継がなく両者は別個の主体であるとの立場から、旧日航労組の清算人および日航労組に対して各貸与している組合事務所の返還を求めるに至り、そのうちの東京支店および大阪支店についてはこれをめぐつて訴訟まで提起されたこと、しかし、被告が組合事務所として使用中の第一建物については、原告は被告に対しまだこの段階でも明渡の請求をしなかつたこと。

(四) 原告が被告に対し第一建物の明渡を求めたのは昭和四四年一二月三一日であつて、その直接の原因が、原告の沖繩支店の営業所が営業拡大等のため手狭となつたので第一建物から第三建物に移転する必要に迫られ、第一建物の所有者合資会社井筒屋との間において第一建物賃貸借契約を解約し、昭和四四年一二月三一日をもつて右部分を明渡すことになつたためであること。右認定を覆すに足りる他に証拠はない。

右事実によると、原告は旧日航労組に対し旧労働協約の期間満了後も第一建物を組合事務所として使用することを認めていたといわざるをえない。

次に、被告が原告に対し、第一建物に対する右貸借権を主張しうるか否かにつき考えるに、旧日航労組と日整労組は合同するため、昭和四一年七月一六日・一七日の各臨時大会においてそれぞれ新組合の設立時をもつて解散する旨の決議を行ない同年八月二六日ないし二八日の新組合設立大会において右両組合の各所属組合員が加入して、新たに日本航空労働組合を設立したことは当事者間に争いがなく、右事実と<証拠>によると、旧日航労組と日航労組との間には人的、物的に関連性があり、団体としての統一性を持続するから日航労組は旧日航労組の原告に対する諸権利を承継すると解するのが相当であり、したがつて、日航労組の沖繩支部である被告は原告に対し旧日航労組の有する右権利を主張することができる。右事実によると、被告の右抗弁は理由がある。

3  原告は再抗弁として右貸借を昭和四四年一二月三日に解約したと主張し、<証拠>によると、原告は被告に対して同日頃右貸借を解約したことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

4  そこで被告の再々抗弁につき検討する。

(一) まず、被告は、右組合事務所の貸与は労使慣行に基づくものであつて原告が一方的に代替事務所を貸与することなくこれを解約することができない旨主張するが、前記二の1記載の認定事実によると、原告の被告に対する旧労働協約の期間満了後における第一建物の貸与行為は、原告において当時被告が組合事務所として第一建物を使用している現状を考慮して、被告との間に早期に新労働協約が締結されることを期待して使用させていたものであることが明らかであり、このことからすると組合事務所の右貸借につき原、被告間に被告主張のような労使慣行があると解することはできず、また、他に右貸借につき被告主張のような労使慣行の存在を認めるに足りる証拠もない。

(二) 次に被告は、原告の被告に対する第一建物の右解約行為は、原告が第二組合である全日航労組に対して第三建物の一部を組合事務所として貸与していながら、第一組合である被告には代替事務所の提供もなくなされたものであり、不当に両者差別したものであるから不当労働行為として無効である旨主張するので考えるに、確かに原告が全日航労組に対してのみ第三建物の一部を組合事務所として貸与したことは当事者間に争いのない事実ではあるが、仮に原告の被害に対する第一建物貸借の解約行為が不当労働行為にあたるとしても、企業からの組合への組合事務所の貸与は労働組合法七条三号但書の示すとおり、あるべき労使関係の姿に照らした場合例外的に認められるに過ぎないものであるから、労使間にかかる合意または法的拘束力まで認められるに至つた労使慣行の存在しない限り単に、被告が原告の企業内組合であるとの一事をもつて、原告の代替事務所の提供なくして第一建物の貸借を解約した行為が無効となるものではないと解するのが相当である。しかるに、全証拠によるも、原被告間にかかる合意または労使慣行を認めることはできない。

第三結論

以上のとおり原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、本訴および反訴の訴訟費用につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(山口和男 吉野孫二 仲宗根一郎)

<物件目録省略>

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